よろこんでー!
ご無沙汰しておりました! ゆきねこです。
実は先日、お宝を頂いたお礼にリクエストを受けまして。

『あんま痛かったりしないまだグランが元気な頃の2人のある夜』

でございます!

(十日もかかってしまって本当に申し訳ない……!)
(そしてB面の最新話でよかったんじゃね? とかちょっと思った)(ちゃんと書き下ろしました)



 その小部屋には不釣り合いに立派なランプが卓の上を照らしていた。
 灯りのすぐ傍で、クセロは手にした紙束に視線を落としている。
 ぶつぶつと口の中で呟いていた彼が、ふいに顔を上げた。音もなく立ち上がると、扉を開く。
 その向こう側に断っていた相手は、突然現れた男に一瞬きょとんとした表情を向けた。
「全くお前は気配に聡いな」
 すぐに苦笑してそう言うと、幼い主人は遠慮する素振りもなく部屋に入りこんだ。
「この程度、聡いってもんじゃねぇさ」
 肩を竦めて、クセロはその後ろ姿を眺める。
 グランは気配を消す訓練などしたことはあるまい。クセロにとっては、大して難しいことではない。
 もう幾夜もこの部屋にやってきていたグランは、真っ直ぐに壁際の小さな机へと近づく。
 そこには、水の満たされた瓶と鉄製の小さなポット、陶器などが置かれている。
 茶葉を入れたポットに水を移し変えた後、グランはその蓋に手を触れて、口の中で小さく呟いた。
 数秒後には、注ぎ口から湯気が吹き上がってくる。
 何度見てもそれは驚異で、クセロはまた興味深そうに覗きこんだ。
 熱せられたポットを素手で運ぶ少年の後ろから、カップなどを掴んで続く。
「励んでいるか?」
 卓の上に放り投げられた紙束を整えながら、尋ねてきた。
「何とかな。貴族ってのは、えらく回りくどい」
 金髪の青年は、苦い顔で答える。

 この幼い巫子に仕えることになって、色々と仕込まれてきてはいるが、今は、貴族界隈の符丁について教えられていた。暗喩や、慣用句といったものだ。
 これらに通じていなくては、貴族の会話を盗み聞きしたとしても、何が話されているのか理解できない。
 しかも、それらは、長い年月をかけて築かれた貴族文化に由来する。
 下町で生まれ育ったクセロには、無縁のものだ。
 僅かに笑んで、グランは紙束をぱらぱらと捲る。
 こうして、彼は日に一度はクセロの様子を見に来る。忙しいのだろう、大抵は夜中だ。
 最初にクセロに茶を淹れさせてから、二度とそれを命じることはなかったが。
「予定よりも、進行が早いな」
「覚えめでたい俺に、酒でも振る舞っては貰えねぇかね?」
 どさり、と椅子に座ると、挑発的に尋ねる。
 どうやら、今夜の高位の巫子は機嫌がいい。普段であれば、眉を寄せて一蹴されるだろう。
 だが、それを予測していたように、彼は聖服の懐から小瓶を取り出して、卓の上にコトリと置いた。
「まあ、お前にしてはよくやっているからな。特別だ」
「特別って言うには、小さすぎんだろ……って」
 ひょい、とそれを手に取る。無造作に視線を向けたラベルに、息を飲んだ。
「……大将、こいつぁ……」
 見事な飾り文字で描かれていたのは、超高級と言われる醸造所の名前。しかも、十年以上前に仕込まれたブランデーだ。
「寄進されたものだ。僕は飲まないからな。紅茶にでも入れるといい」
 ちょうどポットから紅茶を注ぎながら、グランは告げる。
「勿体ないこと言わないでくれよ、大将」
 呆れ顔で、金髪の男は返す。
「ものはまだまだある。次は、お前の忠心次第だ」
 すっ、とティーカップが目の前に差し出される。
「期待してくれよ。クレプスクルム山脈の岩が、全て苔で覆われるまでも大将に仕えるさ」
 さりげなく隠しに小瓶をしまいこんで、クセロは請合う。
「その年月は、慣用句の域を超えるかもしれんぞ」
 三百年を生きる幼い巫子は、苦笑しつつ新しい部下をたしなめた。

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

tag : 竜の丘-B面

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さがしもの。

ゆきねこは肌が弱いのですが、こちらの石鹸やシャンプーだと荒れません。(※個人差があると思います)


コラーゲン飲料。季節限定「フレッシュピーチ」(美味しくてオススメ!)と、定番の「ビューティー・ベリー」。飲みやすくて(重要)、数日で肌がぷるぷるになりました。(※個人差があると思います)


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